現行の短期賃貸借と抵当権の関係
改正内容の説明の前提として賃借権と抵当権の関係についての現行民法の考え方を簡単に説明します。
まず、抵当権の設定登記前から成立しその対抗要件を備えている賃借権は、抵当権に優先し抵当権の実行(競売)による何らの影響もなく競落人(民事執行法では「買受人」といいます。)に対して賃借権の主張ができます。契約期間の長短は関係ありません。ここで賃借権の対抗要件と言っているのは、土地でも建物でもその賃借権の「登記」がそれに該当することはもちろんですが、土地では賃借地上の「建物の登記」、建物では「引渡し」が賃借権の対抗要件となります。
次に、抵当権の設定登記後に締結された賃貸借契約に基づく賃借権は、短期賃貸借すなわち建物賃貸借では3年以内、土地賃貸借では5年以内の契約期間のものに限り、競売によって所有者(賃貸人)か替わってもその契約期間内は賃借権を主張できることとされています。
これを短期賃貸借の保護といいます。本来であれば同一不動産についての権利の優劣はその権利の対抗要件の先後によって決せられますから、民法が特別の規定を設けなければ抵当権の対抗要件(登記)が具備された後の賃借権は抵当権の実行(競売)により覆ることとなり、競売によりただちに物件から立ち退かなければならなくなるはずです。
しかし、それでは抵当権力設定されている不動産を借りる人がいなくなります。なぜなら、せっかく賃借しても突然明渡しを求められる可能性があるのでは危なくて仕方がないからです。そこで民法は抵当権と不動産利用権の調和を図る見地から短期の賃借権に限って保護をすることとしたのです。この場合、短期のものに限って保護することとしたのであって、その期間を超える契約期間のものは初めから一切抵当権に対抗できません。たとえば5年の建物賃借権は3年間保護されるのではなく競落人が代金を納付して所有権を取得したときに、ただちに物件を明け渡さなければなりません。
なお、競売開始決定による差押え登記より後に締結された賃貸借の賃借権は、抵当権者、競落人に一切対抗できません。差押えというのは、そのような新たな権利設定や処分行為をできなくするという効力を生じさせるものだからです。
また、短期賃借権はその契約期間内は賃借権を対抗できるというのであって、競売開始決定後は期間満了による更新を主張することはできません。
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