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首都圏の地価にバブルは発生しているか?

「今年の公示地価によると、全国平均で地価はわずかなからもプラスに転じました。地方圏ではまだ下落している地域も多い一方、三大都市圏ではプラスとなり、特に東京都心部では、前年比二桁以上の伸びを示している地域も見られるようです。この、東京圏を中心とした地価の動きは、昨今の経済実態から見ると「上がりすぎ」の感じがします。「都市圏においてはすでにハブルか発生している」、とみなすことかできるのでしょうか。」

酒井 博司 教授

 
 国土交通省は
322日に平成1911日時点の公示地価を発表しました。公示地価とは、国土交通省が毎年公表する全国の土地価格であり、2000人を超える不動産鑑定士が調査地点や近隣の売買例、賃料などをもとに算定し、土地鑑定委員会が審査した上で決定するものです。なお、今年の標準地設定数は3万地点となっています。公示地価を開示する目的としては、価格情報を明らかにし、土地取引を円滑にすることのほか、公共事業用地の取得価格の基準として用いること等が挙げられます。土地は必ずしも毎年、各地点において売買されるわけではないため、調査地点の近くで成立した売買価格や賃料等を参考に推定が行われます。

 それでは、今回の公示地価にはどのような特徴があったでしょうか。まず指摘できることは、全国平均(全用途)の公示地価が前年比プラス0.4%と、16年ぶりにプラスに転じたことです。つまり、バブルが崩壊してから地価が上昇に転じるまで16年の期間を要しました。しかし、地価の動向は全国一律ではありません。東京、大阪、名古屋からなる三大都市圏では全用途平均で前年比3.8%と高い伸びとなった一方、地方の全用途平均は、まだ前年比マイナス2.8%と反転していません。つまり、地価の二極化傾向が進んでいるという点も今回公表された地価の特徴となっています。

 地価が上昇した地域の中でも、特に東京の動きは顕著なものとなっています。東京都区部についてみると住宅地は11.4%増、商業地は15.9%増と、いずれも前年比二桁の上昇率です。区部都心部(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、渋谷区、豊島区の各区)に限れば、住宅地で18.0%、商業地で18.3%(いずれも前年比)と、極めて高い伸びを示しました。都心部以外でも、23区のうち住宅地では12区が、商業地では19区が二桁上昇となっています。
 
 それでは、都心部を中心とした地価の大幅な上昇に、バブルの影が見えるのでしょうか。不動産取引に関する税制上の側面から、国土交通省が「土地バブル」への問題意識を強めつつあるとの報道や、金融システムの安定上の観点から日銀や金融庁も注目しているとの見方もあります。基本的には、地価が上昇した地域において、なぜ上昇したかという「裏付け」があるのであれば、すなわち、ファンダメンタルズにより地価の状況を説明することができれば、「バブル」とみなすことはできません。しかし、それだけでは説明ができないということであれば、何らかの「バブルの発生」が示唆されることになります。

それでは、果たして、バブルは発生していると言えるのでしょうか。「バブル発生の有無」を判断するには、マクロの視点とミクロの視点の双方が必要です。まず、マクロの視点から整理をしてみましょう。

 理論的に地価の水準を考える場合、地価は、当該土地が将来にわたり生み出すと期待される地代の割引現在価値(実質利子率で割り引いたもの)となります。マクロの観点から、「地代の割引現在価値」を解釈すると、それは「土地の収益力の割引現在価値」であり、即ち土地の「経済力」を反映したものとなります。そして、国全体では、経済力を反映する代表的な指標が「実質国内総生産(GDP)」です。その観点からは、地価はほぼGDPと同様な動きをするものとみなすことができます。そこで、バブル期直前の1985年と現時点との比較をしてみると、GDPで表される経済規模は1.6倍になっているのに対し、市街地価格指数(商業地)はむしろ下落しており、経済規模と照らし合わせると、地価はまだ本来の4割程度にしか達していないとの見方もできます。また、バブル最盛期である1990年においては、土地の時価総額は2400兆円とGDP5倍超にまで達していました。しかし直近における土地の時価総額は1200兆円程度とほぼ半減し、GDP比も2.5倍程度にまで落ち込んでいます。つまり、直近時において一部の土地が値上がりしたところで、マクロ的な観点からみると、バブルが発生しているという状況とみなすことはできません。
 
 次にミクロの観点から理論地価を解釈すると、基本的には実質利子率は地域による差がないため、土地を利用することによる便益の程度が、各土地の地価を規定することになります。その点を判断するために、まず、今回の都心部における地価高騰の要因を整理してみます。

 土地を利用することによる便益の程度は、ほぼ、その土地に対する需要の強さによって測ることができます。そのため、都心部における土地の需要状況についてみていきます。
 
 第一に指摘できる点
としては、日本経済が「失われた
10年」を脱し、常態に戻る過程において、企業や家計のバランスシートも健全化していきました。その間、都市圏を中心に大規模再開発や交通基盤整備も進みました。そして、利便性の改善した都市圏には、20歳代後半から30歳代前半にかけての比較的若い人口が流入していることが特徴です。若年世代のライフスタイルが変化する中で、仕事を行いつつ結婚や出産、子育て等を効率的に行うことができる「便利な都心」への需要が高まったのです。その意味では、都心部の土地に対して将来の値上がりを見越して購入を急ぐという動きではなく、実際に居住するという観点から「需要が増加している」と見ることができます。

 二点目として指摘できることは、量的金融緩和のもとで豊富となった余剰資金が不動産投資信託(REIT)を通じて都心部の優良な物件に向かい、不動産市場に流入したことが挙げられます。REITについては、投資家からの資金により不動産を取得し、賃料収入をもって配当に充当します。それゆえ、各不動産に対する評価の際に、収益還元法が応用しやすい状況にあります。バブル期においては、短期的な土地の値上がり期待から、実態に即さない形での地価の上昇も見受けられました。実際に利用価値が高まっていない土地の地価も一律で値上がりしたというのがバブル期の特徴です。しかし現況においては、地価形成の背後に「収益還元法」という考え方があるため、本当に利用価値の高い土地しか値上がりはしていません。そして、収益還元法のもとでは、各土地の期待される収益力と地価のバランスが市場を通じて速やかに調整されます。よって、土地の実力からみて、行き過ぎた地価形成が起こる場合は短期的に調整されるゆえ、バブルは発生しにくい状況になっているものと思われます。

 三点目としては、土地需要者としての企業の動向が注目点です。バブル期においては、企業が本業とは必ずしも関係のない部分で、土地の値上がり期待を見越して土地の購入を進めたという動きがありました。それが、後のバブルの後遺症を強めたことは周知の通りです。その教訓もあり、今般においては企業によるその種の動きは生じていません。また、資産の収益性の低下により投資額の回収が困難となった固定資産に対し、回収可能性に見合った額に帳簿価額を減額する「減損会計」が導入されるという状況は、企業の土地資産に対する考え方にも変化をもたらします。つまり、企業としても、土地活用による収益性の向上を期待しにくい土地をあえて所有しようとは考えません。また、すでに保有していて有効活用が期待できる土地については、利用価値を高めて資産効率を上げようとの努力がなされます。企業が土地を活用する際に「収益率」がキーワードとなりつつあることは、「地価形成が合理的に行われる」ことを意味します。

 上記の要素を併せ考えると、昨今の首都圏を中心とした地価の上昇は「バブル」とみなすことはできません。なお、もちろん、経済の安定にとって大きな影響を及ぼすバブルの発生を起こさぬような制度設計を絶えず考えていくことも必要でしょう。


株式会社三菱総合研究所政策・経済研究センター
  主席研究員
横浜国立大学大学院客員教授
   

酒井博司
[さかい・ひろつぐ】1986年三菱総合研究所入社。米国八一バード大学大学院経済学研究科留学(9395年)を経て、95年復職。専門は計量経済分析。横浜国立大学大学院環境情報研究院客員教授を兼務。

月刊 不動産フォーラム21 より
2007-07-05.THU
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