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団塊世代、地方移住希望者数と今後の課題

リクルート住宅総合研究所の調査・推計によると、首都圏在住の団塊世代で地方移住希望者は4.4万世帯。
これは、今年の首都圏新築マンション供給予想量8.2万戸の5割以上に相当します。
不動産市場の需要拡大が期待される一方で、課題もたくさんあります。

 
株式会社 風 取締役社長大久保恭子
プロフィール
77年に日本女子大学住居学科卒業、79年にリクルート入社。その後、週刊住宅情報編集長、日本住宅ローン取締役等を経て、05年に株式会社風の取締役社長に就任、06年にリクルート住宅総合研究所の顧問を兼務。都市計画中央審議会特別委員(国土交通省)をはじめ多くの審議会委員を務める。

1 首都圏における地方移住の市場規模

 団塊世代の地方移住は−体どのくらいの規模になるのでしょうか。
リクルート住宅総合研究所が昨年実施した、首都圏在住(1都3県)の団塊世代の住み替え意向をもとに、住み替え市場規模を想定すると(図)のようになります。持ち家・賃貸世帯のうち住み替え意向のある人の13.1%が地方移住を希望しており、首都圏の世帯数に置き換えると約4.4万世帯となります。この数字は、今年の首都圏新築マンション供給予想量が8.2万戸ですから、おおよそ5割分の需要量に該当することになります。
 さらに、この4.4万世帯がどんな住宅形態を希望しているかを推定すると、新築マンション6,700戸、新築戸建2,300戸、中古住宅6,700戸、注文住宅6,900戸、賃貸住宅2万400戸といった内訳になります。
 ただし、この数字は56〜60歳のモニターを対象としたインターネット調査という性格から、この年代にしてはパソコンが苦手でなく、進取性や行動力の高い人が回答したことが想像され、4.4万世帯の地方移住者数というのは上限の数字とみなしておいたほうがよいと思われます。

(図)

2 地方移住の受け皿としての自治体の対応


 地域活性化策の一環として、このような地方移住希望者の受け入れに積極的な地方自治体が増えています。この表・pdf は、移住・住み替え支援機構が実施した自治体へのアンケート調査をもとに作成した移住者の受け入れに積極的な自治体情報です。住宅の紹介や斡施だけではなく、生きがいサポート、仕事の紹介や斡施、アドバイザー制度や移住お試し体験など、移住促進のための各種サービスが提供されているようです。
 そうしたなかで、積極的な動きを展開している福岡県の「福岡県あんしん住み替え情報バンク」の活動内容をご紹介します。
 このバンクの特色は、@住み替え先、持ち家活用の相談業務、A実際に住み替えるための住宅探しや自宅の売却、賃貸等の仲介・管理といった不動産取引業務、を2段階に分けて運用するという、実践的な仕組みにあります。相談業務は福岡県を中心とした公的機関が窓口となるものの、実際の住宅売買・賃貸といった不動産実務に関しては地元大手・中小仲介会社、全国展開の仲介会社101社を協力事業者としてネットワーク化し、委託することで、実効性を高めています。
 現在、50人が「福岡県あんしん住み替え情報バンク」を活用して住み替えを実現しており、県外からの移住者は5人程度とのことです。他県からの移住は何らかの地縁、血縁がないとなかなか実現しにくいようですが、最近テレビで、1カ月10万円で暮らせる町ということで紹介されたためか、福岡県糸島郡志摩町には地縁、血縁のない人たちからの反響が多く寄せられているとのことです。知らない町であっても、そこで暮らすイメージを具体的に伝えることができればそうした人でも移住対象となりえるということでしょうか。
 いずれにしても、「福岡県あんしん住み替え情報バンク」は官と民が連携することで、より高い成果を目指す1つの事例ということができます。

3 地方移住を実現する上での課題

 
 積極的に官・民が受け皿を用意して地方移住を促進しても、いくつかの課題を解決しない限り移住は実現しないというのが、移住体験者と取材を通して接してきた私の感想です。
 なかでも、もっとも大きな課題となるのは、定年後の暮らしのプランニングです。
 定年退職するまでの団塊世代の多くは、仕事中心のサラリーマンとして、職場と自宅を往復する振り子運動を日々繰り返すことで、人生を築き上げてきました。
 就職し社会人になると、まず、職場に近いところに住宅を探し、結婚すれば夫婦おたがいの勤務先の中間点に所帯を構え、転勤になれば転居する。というように多くの人は「仕事=勤務先」を起点に住むところを決め、40年もの間、自宅と勤務先を振り子のように往復してきたのです。この振り子運動こそが人生の基盤といっても過言ではないと、私は考えます。
 したがって、定年後はこれまでの「仕事=勤務先」に変わる新たな振り子運動の起点となるものを見出すことを通してし、新たな人生の基盤づくりが必要となってくると思われます。それなくしては新たな自宅を地方に定めることはできません。本当の自分らしさが発揮できる生きがい、地域の人々との交流や地域社会の発展に貢献、ボランティア活動、定年延長等々、自分にとって相応しい具体的な起点を自らがプランニングできないことには、移住活動はいつまでたってもスタートの位置にはつけないのです。この課題解決には、一般常識的な答えはなく、団塊世代一人一人のこれまでの生き方や経験、価値観に基づくものであるだけに、もっとも難易度の高いものと考えます。

 次なる課題は夫婦の意見の相違です。やっと、振り子運動の起点となるところが見えてきたとしても、夫と妻では意見が異なると、これはこれで厄介なことといえます。
 農山村の自然のなかで、畑仕事や地域交流をめざしたいロマン派の夫と、都心の便利なところで友人と趣味や観劇、食事を楽しみたい現実派の妻、相対する意見をひとつに収斂できるかどうかが課題となります。移住体験者の多くは、田園生活と都会生活が両立する“トカイナカ”を選ぶことで、双方の折り合いをつける傾向にあるようです。関東地方では“トカイナカ”とは東京から1.5時間程度の距離にある自然が豊で、その気になれば夕方、東京の都心でコンサートを楽しみ、おしゃれなレストランで食事をしても、その日のうちに帰宅できるところです。
 具体的には千葉県の外房、内房、神奈川県の真鶴、湯河原、栃木県の矢板あたりなどです。
当初、多くの夫(たいがい妻より夫のほうが移住には積極的)は精力的に八ヶ岳、伊豆といったリゾート地や古民家のある田舎に憧れて、住み替え先を探し始めます。ところが土地・物件価格の高さ、住宅の機能、交通費などの移動コスト、オンシーズンの渋滞、冬の寒さなどの現実に直面し、“トカイナカ”立地へと移行していきます。結果として都会志向の妻も渋々ながら、首を縦に振ることになる、というケースは多いようです。
 前述のリクルートの調査でも、住み替え希望者のなかで、東京23区、横浜市、川崎市を除く1都3県内での住み替えを志向する世帯が37.6%存在することから、地方移住は夫婦の折り合いをどうつけるかという点で、選択肢が狭まるように思われます。
 
 3つ目の課題は、持ち家の場合、今住んでいる家をどうするかです。 
高齢になってからの住み替えには不安がつきまといます。新しい土地での生活に馴染めるか、ご近所との関係はうまくいくか、田舎に移住する場合、都会と違って医療施設や日常生活の利便性、文化度の面から生活満足度が低くなるのではないかなど、もろもろの不安が先に立ちます。
 途中でいやになったらいつでも戻れるように自宅は手放したくない、その反面、住み替え資金、住み替え後の生活資金のためには人に貸したり、売却したりする必要がある、さて、どうするかです。結局、答えがみつからずに、住み替え計画が頓挫してしまうというケースは多いようです。
 そこで、1つの解決方法として考えられたのが、2006年10月から国の支援でスタートした移住・住み替え支援機構(*)の借り上げ保証制度です。この制度は、50歳以上の子育てが−息ついた世代が所有する住宅を借り上げて、空き家の場合も家賃を保証するというものです。家賃は相場よりは低い水準となりますが、転貸は3年の定期借家とするので、契約期間終了後には自宅に戻れるメ
リットがあります。最低保証家賃は住宅の老朽化の状況や相場を勘案して適宜、見直すことになっています。
 この制度に対する反響は1月12日時点ではすでに350件あり、うち5件が実際に制度利用の申込みをしています。先述の官・民の受け皿についても、この制度を活用すれば移住促進の効果が高まるものと考えます。
 
 こうした課題はあるものの、今年から本格化する団塊世代の定年が、地方移住を始めとして、今後の住宅市場にどんな影響を及ぼすのか、ひいては高齢化時代の住宅市場の方向性をどう示唆するのか、興味深いものがあるといえます。

*有限責任中間法人移住・住み替え支援機構
(代表理事・大垣尚司立命館大学教授)
 http:〃www.Jt−i.jp/institure/
2007-04-15.SUN

全宅連誌「リアルパートナー」より
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