東日本大震災の沿岸被災地では、市町村の街づくりに先行して、企業が高台の土地を高値で買収するケースが出始めている。国土交通省が19日発表した12年の基準地価によると、住宅地の上昇率全国10位までは岩手、宮城両県が占め、商業地も宮城県の4地点が全国10位以内にランクイン。地価の回復が目立つ一方、地価の高騰や移転用地不足を招きかねず、復興への影響を懸念する声も上がる。
◇復興への足かせ懸念
岩手県南部の陸前高田市は今年6月、被災した3中学校の統廃合にあたり、3校から中間距離にある高台の山林と田畑を建設用地に決定した。しかし市が購入を検討していた用地南側の一部(約4000平方メートル)は、既に大手住宅メーカーが地権者への買収交渉を進めていたことが判明。関係者によると、メーカーの買収価格は1平方メートル当たり1万円とも言われ、国が山林に道路を建設する際の10倍近いという。
基準地価:上昇地点は7倍に…消費増税の影響懸念
19日に発表された基準地価は21年連続で下落したが、上昇地点は658地点で、前年(88地点)の7倍以上に上った。「大阪市中心部の商業地では賃貸市場に底打ち感」(都市未来総合研究所)と一部の下げ止まりを示唆する分析もあり、回復基調を印象づけた。
東京都港区に8月に完成した森ビルの「アークヒルズ仙石山森タワー」(地上47階、地下4階)は、25階以上が賃貸オフィスだ。耐震構造・非常時発電双方を備えており、同社は「営業は好調。東日本大震災以降、大規模災害が起きてもビジネスが続けられるよう、BCP(事業継続計画)対策を強化した成果」と分析する。
商業地を見ると、こうした「BCP物件」や、業務集約のための大規模オフィスが人気を集めている。これが追い風となり、3大都市圏では111地点(前年9地点)が上昇した。
住宅地の上昇地点は、全国で458地点(同69地点)に上った。大規模複合商業施設の開業(神奈川県藤沢市)や地下鉄新駅・国道開通(名古屋市)など、利便性の向上が主な要因だ。
基準地価:湾岸エリア復調
国土交通省が19日発表した7月1日時点の全国の基準地価。東京都内の住宅地では、中央区の下落率が前年の0.9%から0.4%に改善した。昨年は東日本大震災の影響で、超高層マンションが集中する湾岸エリアで買い控えの動きが表面化。三井不動産や三菱地所など不動産大手各社は一時、販売を抑えたが、一転して販売活動を強化している。非常用発電機の能力増強など震災対応を進めた結果、需要が回復している。三井不動産は「万一の場合も不自由なく生活できるとわかり、安心を得ているようだ」と説明する。
千葉県浦安市の住宅地は、昨年の7.1%の下落から1.6%の上昇へと転じた。調査地点が減り4地点のみの比較だが、「確実に回復傾向が見られる」(国土交通省)。地元販売会社は「液状化対策が進み安心感が広がりつつある」と話す。